うた

あのこはうたう。

わたしがどうあったっていい。

すきなものにすきなものなりのふるまいを、しなくてもいい。

きらいなものにきらいなものなりのふるまいを、しなくてもいい。

なんにもいらない。

そこにはなんにもない。

あのこはうたう。

ちいさくうたう。

そのうたがなんであるのか、あのこはしらない。

あのこはそのうたがあのこのつかうことばでうたわれるうただということをしらない。

だれもきづかない。

あのこがいみのないおとのられつを、くちずさんでいることに、だれもきづかない。

なのにいうんだ、あのこはばかだ、って。

かしのかいたかみを、わたせばいい?

ううん、ちがうんだよ。

あのこはそのかみが、じぶんのいきることに、かんがえることに、なくことに、わらうことにかかわっているということを、わからないんだよ。

あなたがそこでいきをしているように、それでいいってことが、わからないんだよ。

わたしはそのこをみている。

わたしだってわからない。

きづいていないのかもしれない。

たぶんそうだ。

うしろをふりかえれば、おなじうたがあちこちからきこえてくる。

おとなも、こどもも、そのどちらでもないたくさんのひとも、じぶんだけのうたをうたっている。

でもそれはみんなおなじうたなのよ。

わたしも、うたをうたっている。

きっとわたしがうたっているのも、それとおんなじうた。